吉川英治『三国志』の名言集「願わくば同年同月同日に死なん」

一剣の勇では、百人の賊を斬ることもむずかしい。
百人の賊を斬っても、天下は救われはしないのだ

ああ、こんな吉日はない。
実に愉快だ。再び天にいう。
われらここにあるの三名。
同年同月同日に生まるるを希わず、
願わくば同年同月同日に死なん

小人の小人ぶりに、
いちいち腹を立てていたひには、とても大事はなせぬぞ。
天下、小人で満ちいる時だ

登れそうに見える所から登ったのでは、
奇襲にならない。
誰の眼にも、登れそうに見えない場所から登るのが、
用兵の策というものであろう

やはり世間はひろい。
秀でた人物がいないではない。
ただ、世の平静なる時は、
いないように見えるだけだ

大きな仕事を手軽にやってのけるのが、
大事を成す秘訣ですよ

戦にも、負けてみるがいい。
敗れて初めて覚り得るものがある

通じる通じないは人さまざまで是非もない。
わたしはただわしの真心に奉じるのみだ

身を屈して、分を守り、天の時を待つ。
──蛟龍の淵にひそむは昇らんがためである

いかに大事な品であろうと、
この孫策は、一箇の小筐の中になど大志は寄せぬ。
わが大望は天地に持つ

権力をもってのぞんでもだめだし、
財物を山と運んでも動くまい、人生意気に感ず

なに、帰って来るさ。彼は信義の士だ。
そう見たからこそ、予は彼の生命を惜しんだので、
もし信義なく、帰って来ないような人間だったら、
再び見ないでも惜しいことはない

もうよせ。
そうこの身の美点ばかり聞かせると、
予も袁紹になるおそれがある

君と、予とだ。
今、天下の英雄たり得るものは大言ではないが、
予と足下の二人しかあるまい

義兵は勝ち、驕兵はかならず敗る。
誰もが知る戦の原則です

主上を奉じて人望を従う大順こそ、
あなたの運命をひらく大道でもあります。
他人に先んじられぬうちに早く決行なさい

千里万里もおろか、お暇も告げず、
直ちに、故主のもとへ立ち帰り申すであろう

決して、広言ではない証拠をいますぐお見せしましょう。
軍中に戯言なしです

武人一歩を踏む。
なんでまた一歩をかえしましょうや。
舌をうごかすのさえ、
一言金鉄の如しというではありませんか

「人生の快、ここに尽くる」
「何でこれに尽きよう。これからである」

野に遺賢なしということばがありますが、
いつの時代になろうが、
かならず人の中には人がいるものです。
ただ、それを見出す人のほうがいません

他日、天下に理想を展べる日もあらんことを想えば、
百難何かあらんです

冒険には違いないが、千里の遠征も、制覇の大事も、
そう二度三度くり返されません。
すでに都を去ってここまできたものを
千里征くも、二千里征くも大差はない

たとい、玄徳が、この一事のため、亡ぶ日を招くとも、
そんな不義なことは断じてできぬ

そういう少数の中だけでもてあそぶ真理なら、
どんな理想でも唱えていられよう

わしが、孔明を得たことは、
魚が水を得たようなものだ

国は人をもって本とすという。
いま玄徳は国を亡ったが、その本はなお我にありといえる。
民と共に死ぬるなら死ぬばかりである

天この若君を捨てたまわず、
われに青釭の剣を貸す！

一子はまた生むも得られるが、
良き国将はまたと得がたい

優数常に勝たず。大船常に小船に優らず。
要は士気だ。
士気をもって彼の隙を破るのは、用兵の妙機にある

鳥獣すら殺手をのばせば、
未然に感得して逃げるではありませんか。
まして万物の霊長たるものが、
至上の生命に対して、なんで無感覚におられましょうや

呉国、建って以来、ここ三代。
それしきのお役に立つ人もないとは、
周都督のお眼がほそい。
ここに、不肖ながら、黄蓋もおるつもりでござるに

敵を謀るにはよろしく
敵の智能の度を測るをもって先とす

要するに、兵の進路は流れる水です。
水の行くところ、自然の兵路といえるでしょう

およそ将たるものは、
一勝一敗にいちいち喜憂したりするものではない

容や貌をもって、人物を選りわけていたら、
偽者ばかりつかんで、真人を逸しましょう

あなたのおことばは天理人倫にかなっていますが、
世はいま乱国、いわば火事場です。
晦きを攻め、弱きを併せ、乱るるは鎮め、
逆は取って順に従わす、これ兵家の任です

民が峻厳を求めるとき、
為政者が甘言をなすほど愚なる政治はない。
仁政と思うは間違いである

汝、わが年の老いたるを笑うといえども、
手の中の刃は、いまだ年をとらぬ。
わが利刃を試みてから広言を吐け

昔、哲人は時に順って動き、智者は機を見て発す。
今、天われを助け、不思議の功を与え給う、
受けざるは、これ天に逆らうものぞ

人間五十に達すれば、
吉夢もなし、凶夢もなし。
ただ清節と死所にたいして、
いささか煩悩を余すのみ

死をだに顧みぬ大丈夫が、
医師の手に弄られるぐらいなことで愕きはせぬ。
よいように療治してくれ

時代は移ってきた。
国家の上将たり朝廷の重臣たる自分も、
老いてはやはりあの若者たちにもかなわない。
辱ずべきだ。
よい死場所こそ欲しいものよ

我勝てり。
併しついに、我孔明に及ばずであった

そもそも、智謀ばかりでは戦に勝てない。
また、先頃の大戦では、
蜀は魏よりも兵力は多かったが、負けてしまった。
量るに、智でもなく数でもない

口舌を以ていたずらに民を叱るな。
むしろ良風を興して風に倣わせよ

──悠久。あくまで悠久。
人命何ぞ仮すことの短き。
理想何ぞ余りに多き